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1 「うあ、なんだこれ」 霧雨魔理沙はアリスの家の前にあるそれを見て呟いた。 地面から生えている真っ黒い生首。パッと見はそれである。というかそれ以外の何物でもない。 そしてその生首はブツブツと何かを呟いている。 耳を澄まして聴いて、 「そうか女の敵か」 ものすごく後悔した。その生首は、やれ、おっぱいサイコー、だの、 きょぬーって夢と浪漫と何かがつまってるよねー、だの、貧乳は滅べばいいのにー、だの、 おっぱいおっぱい、だの、ゆかりん可愛いよゆかりん、だの、その少女臭がたまらないよ、だの。 制裁を加えるべきだな。そう魔理沙は思う。この女の敵に女代表として制裁を加えなければならない。 そう、これは自らが女として生まれた以上は必然! 言わばありとあらゆる女達に代わり下す怒りの鉄鎚! 男のエゴをむき出しにしているこの生首への当然の結末! ついでに少女臭などと明らかな欺瞞をまき散らす生首への修正! ………別に、貧乳に個人的に反応したわけでは断じてない。 断 じ て な い 。 「とー!」 とりあえずげしげしと蹴る。正体も分からないし。なんとなく汚い気もするし。 げしげしげしげしげしげしげし「あふん♪」 ―――アリスの家に駆け込んだ。戦略的撤退だ、キモさに負けての敗北ではない。 「うあーん、シンー、アリスー!」 泣きそうな声出してる辺り負けてる気もするが気のせい気のせい。 「ノックぐらいしろよ……で、どうしたんだ魔理沙?」 あきれた声と表情でシンは馴れた応対をする。別段彼女がここにノックも無しで入ることなど珍しくもなんともないからだ。 ……まあ、流石に窓を「ちょいと失礼するぜ!」などとのたまいながらブチ破って入ってきたときは飲んでいたお茶を盛大に吹いたが。 だが、それでも泣きつかれながら入られるのは初めてだ。自然シンも心配そうな顔つきに変わる。 「お、おい、どうした? 何があった!?」 「お、おも、おも、おもおももおおもおも」 よほどキモかったのだろう、全く要領を得ない。もはや半泣きだ。 「落ち着け! 何か起こっても俺が守るから! だから落ち着いて何があったのか話せ!」 落ち着かせるために抱きしめて叫んだ言葉は、 「あうあうあうあうあうあ! あうあう!」 事態をさらに悪化させる! それでこそシン・アスカ! そこに痺れねェ憧れねェ!! ………その後、魔理沙を落ち着かせるため更に力をこめて抱きしめたシンに羞恥心のリミットが外れた魔理沙が ちょっとしたマスタースパークを打ち込んで事態は終息を見せた、やあめでたくなしめでたくなし。 おしまい。 「……いや待て、何一つ始まってない! 結局何があったって言うんだよ?」 幻想郷に来て以来、数多の女難に鍛え上げられたシンにとってパニック状態で放たれたマスタースパークなど、 直撃したところで服がちょっぴり焦げる程度でしかない。 「いや、その、家の前のさ、表、玄関の近くで」 いまだに顔が赤い魔理沙はぽつぽつと話し出す。そこまでで何のことか察したのだろう、シンは納得したように頷く。 ………そこには気づけて、なぜ魔理沙の顔が赤いのかについてはこれっぽっちも察してないのだろうかこの男は。 「ああ、あれか。あまり気にするなよ、関わらなきゃ害はないから」 その言葉に魔理沙は何とも言えない顔をする。納得はしかねるのだろうが、確かに害はなかった。ただひたすらキモかっただけで。 「……まあ、いいけどさ。結局何なんだあれ?」 「んー? キラさん。………元」 いい笑顔を向けるシンに、それ以上の追及はできなかった。 ―――まあ、「あんたのせいでまたやりあう羽目になったんだよ」、「状況悪くするだけ悪くして一人でさっさと消えやがって」、 「パルマ一発で済んでありがたいと思いやがれ」と疲れ切った眼のシンの呟きでなんとなく何が起こったかは把握したが。 「大体あの人は前っから……っと、悪い。愚痴になったな」 「あー、いや、別にいいんだけど、さ」 そういい魔理沙は気忙しそうにきょろきょろと視線を動かす。シンはその態度にだれか探しているのだろうとまた馬鹿な勘違いをする。 「ああ、アリスならいないぞ。今は人間の里で人形劇やってる」 「あ、や、そうじゃなくて、だな。その」 アリスではない、ならば消去法で。 「上海か? それとも蓬莱? 悪いけどどっちも外に遊びに行ってる」 「いやマジボケかそれ?」 まあシンだしな。 「じゃあ……あ。ダメだぞ、色々世話にはなってるけど魔導書は盗ませない! そんなことされたら俺がアリスに殺される」 「いや、そうじゃなしに! えーと、だな。その……たまたま立ち寄っただけ、じゃなくて、その………あの」 魔理沙は帽子と前髪をもじもじと弄くる。そんな魔理沙を見てシンは、 (魔導書でもない? とすると……紅茶か? いや、魔理沙はホットミルク派。考えにくいな…… まさかトイレ? いや、にしては切羽詰まってないな……むぅ?) さらにトチ狂った勘違いを重ねていた。もう少し、あれ、もしかしてひょっとするんじゃね?的に自惚れてもいいようなものだが。 ま あ シ ン だ し な 。 「だからぁ、その………お」 「お?」 そのまま固まる。顔は相変わらず赤いままだ。お、お、と繰り返し、そして。 「お前に、会いに来たんだよ!!」 窓をビリビリと揺らしそうな大声にシンはパチパチと眼を何度か瞬かせ、「そうか」と頷く。 「なら上がれよ、なんか出すから。ホットミルクでよかったか?」 顔もまだ赤い。息は肩でしている。真意は伝えられていない。 それでもちゃんと言うべきことを言えた魔理沙は「・・・うん」と答える。 「―――へえ、本気の幽香とやりあったのか、そりゃまたすごいな」 シンが運んできたホットミルク(蜂蜜たっぷりの極甘仕様)をすすりながら魔理沙はなんでもない話を続ける。 好きな人とはそれだけでも楽しいものだ。 「すごいって言ってもな……引き分けだぞ?」 「いやいや、十分すごいもんだぜ? 私だって本気の幽香なんてスペカ戦じゃなきゃごめんこうむるよ」 賞賛の言葉に慣れていないのだろう、シンは困惑の表情で緑茶―――アリスの見てる前では飲めない。 和風はアリスには不評だ―――をすする。 「むぅ・・・そうはいってもなー。デスティニーに変身してだからなぁ、生身でもちゃんと戦えるお前とは比べられないだろ?」 「自分をそうやって卑下するのはよくないぜ? お前の判断力があるからデスティニーは強いんだよ」 「そういうもんかねー」 「キラだって言ってたぞ、自分がデスティニーになっても性能引き出せないであっさりやられるだろうねーって」 「キラさんが?」 その言葉にシンは意外な表情を浮かべる。 「うん。あ、でもその後、まあ僕の超反応をもってすればシンなんて僕の足元にも及ばないけどねHAHAHA☆って言ってた」 その言葉にシンは玄関の方を睨みつける。 「まあまあ、照れ隠しだよ。耳赤かったし」 「分かってても腹立つんだよ! まったく……」 くすくすと魔理沙は笑う。シンも悪い気はしないのだろう、その顔は穏やかだ。 「………なんか、いいなー」 「ん、何が?」 魔理沙の言葉にシンは首をかしげる。 「いや、こういう、なんつーのかな。なんかいいじゃんか、何にもしないでだべってる時間ってさ」 「んー、ああ。そうかも」 「弾幕ごっことか、魔法の研究も楽しいんだけどさ。なんか、さ」 んー、と魔理沙は背伸びをして、ぐてりとテーブルに上半身を預ける。 「あー、これじゃ霊夢の事を笑えんなー。んあー」 仕方ないなぁとシンは微笑む。実際、魔理沙がぐてりとしてなければ自分がそうしていただろう。 ……微笑んだまま、魔理沙の頭を撫でる。ん?と魔理沙がシンを上目づかいに見つめる。 「ああ、悪い。つい、な」 「んー、いいけど別に。んぅ・・・むー」 くしゃり、くしゃりとゆっくりと撫でる。そのたびに魔理沙はむずがるような嬉しそうな声を上げる。 (うあー、いかん。なんか頭とけそーだ。なんかこー、にーにー言いそー) にへら、と顔がゆるむ。好きな人にこんなことをされればこうもなろうというものだ。 くしゃり。うあー。 くしゃり。んにー。 くしゃり。にあー。 くしゃり。うへー。 ―――ふと、頭を撫でられてだらしない顔をしている白黒の金髪と目があった。 (うわー、なんだあれだらしねー。男に頭撫でられて顔ゆるめ、す、ぎ……ん?) ようやく溶けた脳みそが動き始める。……目があったのは、鏡の中の自分だ。つまり、今の状況は。 「…………う、あ」 かああ、と顔が火照っていく。鏡で見なくたってわかる、顔が真赤だ。 「あの、かえ、る。もう、帰る、から」 「え? いや別にもう少しゆっくりしていっても」 「帰るからっ!!」 そのまま立ち上がり帽子を引っ掴んで玄関に駆け出した。 「お、おいちょっと!?」 訳が分からずにシンも立ち上がる。魔理沙は入り口でくるり、とシンに向き合い、 「お前は、もっと乙女心を分かった方がいい! バーカ!!」 べー、と舌を出してそのまま箒に乗って魔理沙は空に消えていった。 「…………????」 首をかしげるシンは実にボンクラっぽかった。やれやれだぜー、と生首が言ったのでとりあえず蹴っておいた。 おまけ1、香霖堂にて。 「――――ってなことがあったんだが、どう思うよ香霖?」 「え、僕も君が何で怒ったのかよくわからないんだけど?」 「うわ、お前もかよ! あれだなー、お前もシンも八雲紫にでも乙女心を学んだほうがいいぞ?」 「ひどい言いようだなぁ…というか」 「ん?」 「八雲紫は乙女心なんて年じゃ、あれ、なんだこの浮いてる青い棒はって魔理沙?どこ行くんだい、ってちょ、あ」 イケメン惨劇中… おまけ2、アリスの家にて。 「どうかしました、キラさん? キモい笑顔を浮かべて」 「ん?いやなに、ゆかりんからの愛の指令、イケメン死すべしが電波に乗って僕の頭にゆんゆんと届いてきたのSA☆」 「はいはいそうですかーっと。手元が狂ってスコップがあんたの頭にスコッといきそうだからちょっと黙れ」 「そう言いつつ僕をちゃんと掘り出そうとしてくれるシン萌え」 「土食わすから今すぐ口を開けろ!!」 2 魔理沙「シン、ちょっと目をつぶって欲しいんだぜ?」 シン「? ん、まあいいけどね……なんだってお前声震えてるんだ」 魔理沙「い、いいからとっとと目を食いしばれー!」 シン「無茶な。閉じるだけでいいか?」 魔理沙(よ、よーし、後は顔近付けてちょっと唇にちゅっとするだけだぜ。……ちゅっ、と。ちゅっ。……う、うあ。い、いや、やるんだ!) シン「……」 魔理沙(ふ、ふふん。やってみればなんてことないぜ、あともうちょっとでちゅっと……え、えーと。は、肌白いなぁコイツ、まつ毛も長いし) シン「(パチッ)おい、まだか…って、うお、顔近いなオイ!?」 魔理沙「――――う、え、あ」 シン「ん、どうした? 顔赤いけど」 魔理沙「………マ」 シン「マ? あれ、なんか急にヤな予感g」 魔理沙「マスタースパーク!!」 ズキューーーーンッ! アリス「や、やったッ!(心底うれしい)」 霊夢「さすが魔理沙、私たちに(ry(心底楽しい)」 魔理沙「や、やってもーた……!」 シン「何すんだよ、びっくりするだろ!?」 アリス「むしろびっくりで済ますあんたにびっくりよ」 魔理沙「ご、ごめんだぜ。いや、でも、その………ええと。本当はただ、ちゅっ、てするだけで……あー、うん。やっぱいいや、ごめんなさいだぜ」 シン「まあいいけどさ、よくわからんけど………あ。ふと思ったんだけどこの行動は誰に聞いたんだ? 怒んないから正直に」 魔理沙「誰って、そりゃあ……k」 シン「なあんだ、キラさんかぁ。そっかー、あははー。――――――よし、殺そう」 魔理沙「って、ちょ、どこ行くんだよシン……って、行っちゃった」 ぅあんたってひぃとぉはぁぁぁ!!!! フフフフ、ハッハッハッハ、アーハッハッハッハ!! 何手骨体、どうやら僕はあの子の生娘っぷりを甘く見ていたみたいだよ! キラさんめ、死ねぇっ!! 君の方こそ全☆滅だっ!! 霊夢「……ドワオ」 アリス「でもよかった、魔理沙がアンチクショウにズキューーーーンなことしてなくて」 魔理沙「全然よくないぜ……私は駄目な奴だよ!」 霊夢「まったくよね、このへっぽこ。ところでアリス、もしズキューーーーンなことしてたらどうするつもりだったの?」 アリス「そりゃもちろん―――奴を地獄に叩っ込んで私が魔理沙を幸せにするに決まってるでしょ」 霊夢「そういうことを真顔で言えるあんたは本当にキモ……なんでもないわ」 魔理沙「でもさー、アリスはいいよな。シンと一緒に住んでるんだからさー。仲が良くて羨ましいよ、ホント」 霊夢(さてアリスの心境は………あ、ダメだこれ、真っ白になってる) 魔理沙「当面は、お前がライバルだな。ま、負けないんだからな!?」 霊夢「魔理沙、それぐらいにしなさい。そろそろアリス泣くから」 アリス「何言ってるのよ霊夢、泣いたりなんかしないわ。むしろ、恋のライバル出現に燃えてる魔理沙を見れただけでも私、幸せ……ハァハァハァハァ」 霊夢「そう、相変わらず筋金入りのHENTAIね………なんで私、コレと友達やってられるんだろう?」 アスカブリーガー! 死ねぇっ!! ふ、ふふふ、たとえ僕を倒しても、人の心にフリーダムがある限り第二第三の僕と続き、最後の勝利を売るまで戦うだろウボァー 前へ 一覧へ
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崩れ落ちる巨体からは轟々と炎が立ち昇る。 巨体をマンションに預け、燃え立つ姿はまるで大火に見舞われた山を思い起こさせる。 シンの唇に焼け落ちていく巨神の脂肪が貼り付いていく。 それを拭うには、余りにもシンの身体は酷使されていた。 鼻を突く刺激臭が、巨神の焼けていく臭いだとすぐにわかった。 不快でしかないはずのそれが、しかし今だけは心地良く思えた。 (ようやく……守れたんだ……) 何を、とは問わなかった。 ただ漠然とした、けれども確たる達成感が身体中に満ち満ちていく。 緩みそうになる頬を押さえながら、何となく照れ臭いようなむず痒さを覚えて、顔を下に向けた。 座りこんでいたエリオと不意に目が合う。 互いに言葉は交わさない。 けれども、エリオの顔にも似たような照れ臭さ、誇らしさが滲んでいた。 煤に汚れ、汗が張り付いた顔は、昨日よりもどこか大人びて見えた。 自分も同じような顔をしているのだろうか。 尋ねてみたくなった。 脳裏に浮かぶのは今はもう遠い過去のように思える親友の顔。 「やったね、シン!!」 「隊長…」 隠し切れない疲労を滲ませながら、それでも喜色満面の表情でフェイトが駆け寄ってきた。 その顔を見て、くすりとシンは小さく笑う。 何故シンが笑ったのかわからずに首を傾げる仕草は、彼女を年よりも幼く見せた。 本当に自分より三つも年上なのだろうか。 何だか可笑しく思いながら、シンはそっとフェイトの鼻の頭を指でなぞる。 フェイトの鼻の頭に付いた煤を指の腹で拭うと、悪戯が成功したように笑う。 その仕草、その表情にフェイトの顔が林檎のように染まる。 シンは気付いていなかったが、シンの浮かべた笑みは今までの彼のものとは異なっていた。 子供っぽさの残るやんちゃな少年少年した顔ではなく。 一つの事を成し遂げた、夢をその手に掴んだが故に勝ち得た、強さと気高さを孕んだ『男』の笑みであった。 (あ……) その表情に、シンから放たれる雄の空気に、フェイトは急激に鼓動が高鳴るのを覚えながら、ようやくある事に気付いた。 「背、伸びたんだね」 自分の頭の上に手を当てて、そのまま横にスライドさせる。 フェイトの手は丁度シンの頬に触れて止まる。 「初めて会ったときは私の方が高かったのに」 「そういえばそうですね」 男の子なんだなぁ、とフェイトが感慨深く思っていると、フェイトの手をシンが掴んだ。 「ふぇッ!?」 突然の行動にフェイトがうろたえる。 普段シンにそれ以上のスキンシップを迫っているくせに。 そう、心の中で何度も自身に言い聞かせながらも、主と袂を分かったかのように、鼓動は高鳴る一方だ。 シンはそんなフェイトの事など知らぬとばかりに、まじまじと細い羽のようなしなやかな彼女の手を見つめる。 次第に、シンの眉間に皺が寄る。 「怪我してるじゃないですか隊長」 「え?」 「ほら、ここ」 「あ……そうだね、そういえばそうだった」 「直してもらってきて下さいよ?」 「う、うん」 子供を叱る様に、嗜めるように言い聞かせるシンの言うままにフェイトは頷く。 これではいつもと立場が逆だ。 たった一つの戦いで。 たった一つのきっかけで。 随分と大人になったようにフェイトは感じた。 これが男の子の成長なのかと、どこか嬉しく思うと同時に、寂しくも思えた。 「フェイトさん!!大変です!!」 「キャロ?どうしたの」 慌しく走ってきたキャロの帽子を直してやりながら、フェイトは落ち着かせる。 キャロは短く呼吸を整えると、縋るようにフェイトを見上げる。 「まだ、避難が済んでいないんです!!!」 指さしたのは巨神がもたれかかるマンション。 炎が揺らめき、蛇の舌のように近隣の建物を舐め回している。 炎を勢いは衰える事を知らず、真昼の如くシン達の立っている場所までを煌々と照らし出す。 ぎりッ、歯が軋む程に強くシンは歯を噛み締めた。 「俺が行きます」 「そんな、キケンだよ!!」 「中にいる人はもっと危険でしょ」 「それは……だったら私が行く!!」 フェイトの手がぎゅっとシンの袖を掴んだ。 「魔力が空なのにですか?」 「それは…シンだって一緒でしょ!!!」 あの巨神を倒すのに、なのは、はやて、そしてフェイトのトップ3は、その持てる力の全てを使った。 文字通り全てを。 否、死力を尽くさなかった六課の者は誰一人としていない。 シンも当然例外ではなく。 「同じガス欠なら、男の俺が行くべきでしょ?」 シンの言葉にフェイトが押し黙る。 正論であった。 魔力というアドバンテージがなければ一人の少女でしかないフェイトと、屈強な元軍人のシンとを比べたならば、どちらが適任かは明白である。 けれども、フェイトの手は引きとめるようにシンの袖を放さない 。 幼子が親を行かせまいとするように。 必死というよりも、健気なその行為に、シンはフッと険しく引き結んでいた唇を緩めた。 そっとフェイトの頭を撫でると、シンは一つ頷く。 「大丈夫。守ってみせます。誰であろうと」 「シンッ!!!」 そう言いきると、踵を返し、炎に向かって行くシンの背に、悲鳴にも似た声を上げる事しか、フェイトには出来なかった。 ◇ 少女は震えていた。 とうとう来たのだ。 とうとう来たのだ、と小さく呟くと一層震えが増した。 しかし、恐怖はなかった。 視線をぐるりと移す。 テーブルに突っ伏した一人の女。 少女の母であった。 手には包丁が固く握られていた。 左手からはおびただしい血。 既に固まり、どす黒く成り果てた血を汚らわしげに見つめる。 愚かな母だと思う。 少女の家はある宗教に入っていた。 母がではない。 母も父も、祖父も祖母も。 敬虔な宗教家であった。 そのような家に生まれた少女もまた例に漏れず、その宗教を信仰していた。 母親と同じように。 いや、それ以上に。 教典には今日という日が刻まれていた。 『悪魔が跋扈し、狂宴が始まる』 何とも陳腐なものだ。 しかし、少女は、そして少女の家族はそれを陳腐だとは思わなかった。 教典は絶対であったからだ。 そして、教祖はこう言った。 『悪魔に殺されれば魂が穢れる。その前に聖水で清めた刃で自らの命を絶つのだ』と。 母はそれを忠実に実行した。 何故なら母は信仰心に篤い人であったからだ。 愚かな母だと、少女はもう一度思った。 穢れた魂になるのを嫌って命を絶つ。 それはなんて…… 「なんて利己的なの…」 自らの魂の清らかさばかりを思うあまり、肝心の事に気が行っていない。 舞い降りた悪魔を野放しにしておいても良いのか。 いいはずが無い。 主の手を煩わせてよい筈が無い。 本当に主への愛があれば、愛があれば自らを犠牲にしてでも悪魔を一匹でも多く殺すべきではないのか。 「そうよ………そうに決まってる………」 少女は信仰心に篤かった。 母親以上に篤かった。 しかし、少女の未熟な精神は、『自己犠牲』という大儀に酔いしれ、歪んでいた。 少女は恐怖で震えてはいなかった。 ただ、ただ、自己陶酔のあまり、興奮に打ち震えていた。 少女は窓の外をみる。 外は夕焼けのように赤く染まっている。 そう一面の赤。 何と禍々しいのか。 悪魔の赤。 その時、少女の住むマンションの一室がけたたましく開けられた。 「大丈夫か!!!」 少女の瞳に紅が飛び込んだ。 ◇ 「大丈夫か!!!」 一室一室マンションに飛び込んでは人の有無を確認した。 声を外から掛けているだけではわからない。 恐怖に声すら上げられない人間を何人も見てきた。 恐怖に足がすくんで動けない人間をごまんと知っている。 故に、一室一室、部屋を抉じ開けては確認をしていた。 倒れたタンスに足を挟まれている者がいれば手を貸した。 恐怖で動けない者がいれば叱咤した。 ティアナとスバルが駆けつけてくれたのは僥倖であった。 飛び込んだ先には、まだ幼女と言っても差し支えない少女が一人。 小刻みに震える不安げなその姿に今亡き妹が、出会った頃のヴィヴィオが重なった。 「もう大丈夫だから……君は俺が守る」 シンはだからこそ、気付かなかった。 気にもしなかった。 少女の震える手に握られているものに。 激しい炎と、それ故に刻み付けられた濃い影の隠すものに。 「さぁ、いこう……」 そういって、少女の肩に触れた時、初めて少女の瞳とぶつかった。 その瞳の色に、シンは心当たりがあった。 それは ――――――――― 「あ……くま……」 見開かれた黒目がちの瞳、掠れた声。 冷たい感触。 「え……」 冷たい感触がするりとシンの『中』に入り込んでいた。 ゆっくりと、やけにゆっくりとシンは顔を下ろす。 其処には装飾華美な銀色のナイフが根元までシンの腹に入り込んでいた。 刺さっているというよりも埋まるというように。 埋まるといよりも隙間を通すように。 冷たいと思ったのはほんの一瞬であった。 熱い。 急激な熱さ、そして脱力感がシンの全身に広がった。 痛いとは余り思わなかった。 それが少し意外で、何故か滑稽だった。 シンはもう一度顔を上げると、其処には熱病が一気に引いたように、真っ青な顔をした少女の怯えた顔があった。 「わ…わたし…わた…」 カタカタと震える手を見下ろそうとするのを、シンは自分の手を少女の手に被せることで止める。 少女の肩が大きくビクリと震える。 シンは何故だかその少女が愛しくなった。 愛しいというのは些か違うのかもしれない。 放っておけない。 そう思った。 どうしてなのだろうか。 少女は怯えた瞳をシンに向ける。 「あ、ああ、あの、あたし…」 「大丈夫、全然平気だよ?」 少女の黒い髪を撫でる。 叩かれると思っていたのか、一瞬強張る少女が可愛らしかった。 苦笑が漏れる。 「ゴメンな?」 「え?」 「お兄ちゃんの目怖かったか?」 少女は暫しの逡巡の後、おずおずと頷く。 素直でよろしいと、シンは大人ぶって言う。 頭には、嘗てのなのはの姿があった。 彼女達も、或いはこんな思いで自分を見ていたのだろうか。 「大丈夫だよ。怖くない。君を怖がらせたりなんかしない」 「ほんとう?」 少女の震える手をぎゅうっと握り締め、シンは頷く。 一つ、小さく息をする。 腹部に広がる熱が、下半身を覆い、痺れを齎し始めている。 (BJくらい展開出来る余裕くらい残しておけばよかったな) 「いいかい、今からこの棟を出て真っ直ぐに走るんだ。階段に向かって真っ直ぐに」 「まっすぐ……」 「そこにお兄ちゃんの友達がいる。大丈夫、君をいじめたりしないから。その人に付いて行くんだ。そうすれば全部オッケーだから」 こくん 少女は小さく、けれども確かに頷く。 シンはホッとすると、少女の手を引いて立ち上がらせる。 立ち上がらせた瞬間、シンの身体に少女の小さな重みが掛かる。 本当に小さな、些細な重みだ。 しかし、それだけでシンは倒れそうになる。 それを歯を食いしばって耐えると、少女の背中をぽんと叩く。 二、三踏鞴を踏むと、びっくりしたように少女はシンを見上げる。 (もう一ふんばりだ) 「さ、先に行きな」 「うん…」 赤い服を着ていて良かった。 心の底からそう思う。 少女の背が遠ざかるのを見つめながらシンは深く息を吐いた。 「あの!!」 壁にもたれたシンに少女の声がかかる。 「ごめんなさい!!」 涙を浮かべながら言う少女に、シンはニイッと唇を吊り上げて笑ってみせる。 不敵な笑み、力強い笑み。 それを心に牢記しながら。 少女は安心したように、微かに唇を緩める。 初めて見せる少女の笑み。 「ありがとう、お兄ちゃん!!!」 そう言って、今度ははっきりとした笑みを作る。 瞳を閉じて、満面の笑み。 閉じた拍子に両の目の端から涙が零れ落ちた。 それでも少女は笑っていた。 走り出し、部屋から出て行く少女を見つめながら、ようやくシンは座り込んだ。 救われた。 シンは何故かそう思った。 冷たくなり、感覚の無い手を懐に入れると、シンは携帯に手を伸ばす。 一つ一つ渾身の力を込めるように、ボタンを押すと、暫しのベルの後で、喧騒が飛び込んだ。 『シン!!』 「ああ、ティアか……」 『こっちの避難は全部終わったわよ』 「ああ、こっちは最後の一人を送り出したところ。階段に向かってるからさ、頼むな」 『わかったわ』 「ああ……頼むよ」 『シン?』 電話口のティアナの声に不審な色が浮かぶ。 シンは自らを奮い立たせると、努めて軽い声を出す。 「何だよしおらしい。ティアナ様らしくないんじゃないのか?」 『ば、馬鹿!!何よしおらしいって』 「ははは……それでこそティアだ」 『………あんたこそらしくないわよ?無理矢理テンション上げてない?』 鋭い。 シンは内心驚く。 「実はさ、ちょっと怪我して凹んでる」 『何よ。情けないわね~~~怪我してるんじゃないわよ。折角ヴィヴィオがパーティーの準備してるのに』 「パーティー?」 『今日でアンタがこっち来て二年でしょ?』 二年。 もうそんなに経つのか。 あっという間の歳月の流れにシンは急激に感傷を抱く。 『ヴィヴィオったら張り切ってるんだから。シンパパをお祝いするんだって』 「そりゃあ楽しみだ」 本当に。 心底シンはそう思った。 『わかったら…さっさと帰ってきなさいよね』 ティアナの声はこの上なく優しかった。 シンは鼻の奥がツンとした。それは感激だけではなかった。 ようやく気付いた自分の感情。その激しい衝動に涙があふれた。 「わかったって。ああ、それとティア」 『ん?』 これが最後の最後の力だ。 歯を食いしばってシンは顔を上げた。 「俺さ、かなりお前の事好きかも」 『はぁッ!!!ば、ば、馬鹿言ってるんじゃないわよ!!!』 「それだけ。じゃあまたな」 『ちょ、シン!!』 自身の血でぬるぬるとしていた携帯はいつしか乾き、固まり、ごわごわとした感触になっていた。 しかし、シンの手は既にそれを感じるまでもなく、ころんと携帯を落とした。 シンはゆるりとうつぶせに崩れ落ちる。 さっきの少女の目。 マユに似ているとも思った。 それは確かだ。 しかしそれ以上に。 あの瞳の色に、シンは心当たりがあった。 それは ――――――――― 「俺の目じゃん……」 マユを失った自分。 ステラを失った自分。 レイを失った自分。 全てを失った自分。 ただ全てが憎かった自分。 全てが敵に見えた自分。 恐怖と怒り、混ざり合い濁り歪んだ自分。 いつの間に忘れていたのだろうか。 あれは嘗ての自分。 あの世界にいた頃の自分。 「そっか………救いたかったんだ………」 誰をではない。 あの頃の自分をではない。 あの日、あの時、全てを失ったあの日。 妹の手を握り締め、打ちひしがれ、泣き伏していた無力な自分。 あの光景丸ごとを救いたかったのだ。 「じゃあ、やったのか……」 シンの瞼の裏に浮かび上がったのはあの日の光景ではなかった。 なのは はやて フェイト それだけではない。 六課の仲間達の顔。 エリオ キャロ シグナム ヴィータ シャマル ヴァイス かけがえの無い友人。仲間。家族。 スバル ヴィヴィオ そしてティアナ。 全てがこの世界に来てシンが手に入れたもの。 世界から失せたはずの『色』は、いつしか戻っていた。 嘗てのように。 それ以上の鮮やかさで。 「帰らなきゃ……」 シンは両の腕に力を込めた。 ずるずる。 血が張り付き、腹が擦れる度に気が遠退きかける。 それでもシンは力を込める。 どれほど進まなくても。 それでもシンは力を込める。 どれほど痛くとも。 「帰らなきゃ………帰りたい………帰りたい………」 ◇ 「どうしたの?」 フェイトが覗き込むティアナの顔は赤い。 それは炎のせいだけではなかった。 火照りを冷ますように、ティアナは両手を己の頬に当てる。 「な、何でもありません!!!」 「そ、そう?」 あまりの勢いにフェイトは後ずさる。 耳だけではなく首筋まで真っ赤にしておいて何でも無いわけは無いのだが、それを言うにはフェイトは勇気が足りなかった。 「そ、そういえば、ヴィヴィオの準備の方はどうなんですか?」 「ああ、二周年記念パーティーの?うふふふ、ヴィヴィオってばプレゼントまで用意してるよ」 娘の愛らしさを自慢する親馬鹿のように、相好を崩すフェイトを見て、つられるようにティアナも頬を緩める。 ヴィヴィオの健気さが目に浮かぶようだった。 それだけではない。 ヴィヴィオを溺愛するシンのデレデレになるであろう姿を想像したら自ずと頬が緩んだ。 『俺さ、かなりお前の事好きかも』 電話口でのシンの言葉が甦る。 また冷ました頬が熱を帯び始める。 「ばぁーーか…………とっくの昔から私はそうだったわよ」 口にすると、妙な温かさが胸に広がる。 シンが帰ってきたら言ってやろうか。 その時シンはどんな顔をするのか。 それを思ってティアナは一人はにかむように笑った。 シン編:グッドエンド『おかえり』 一覧へ
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みなシン氏作品 17-116 17-586 18-654 19-69 19-801 21-250 ページ最上部へ メニューへ
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カツーン カツーン カツーン ウーノ「ふう」 その夜、ウーノはシンの体に以上がないか心配になり、部屋を訪れようとしていた。 シン「ごめ・・・い・・・・ご・・・・・」 部屋からうめき声が聞こえる。 ウーノは慌てて部屋の扉を開け、明かりもつけずにシンの前にかけよった。 シンは眠っていた。 ものすごい量の汗をかき、涙を流し何かをつぶやきながら・・・・ ウーノは聞き耳をたてた。 シン「・・なさい・・・・ごめんなさい・・・」 ウーノは心配になり、シンの額に手をやった。すると・・・・ シン「母・・さん?」 ウーノは混乱した。自分を夢の中で亡くなった母親と勘違いしていることに・・・ しばらく沈黙し考え、穏やかな口調で聞いた。 ウーノ「シン・・・・何を謝っているの?」 まるで泣き止まない童をあやす母親のように・・・・ シン「・・ごめんなさいっ、僕だけ・助かって、母さん・・父さん・・・・マユを守れなくって、 それに、あの後も戦うことしかできなくって・・・・誰も守れなかった・・。」 ウーノは驚いた。まだシンの『悪夢』は終わっていなかったことに・・・・ いまだに夢の中まで亡くなった家族に懺悔し続けていることに・・・・ ウーノ「シン・・・・確かにあなたには守れなかった人たちはいたのかもしれない。 でも、母さんも父さんもマユも決してあなたを恨んでなんかいない。 それにね・・・シンは戦うことで沢山の人たちを守ってきたわ。 ただ、いつも走り続けていたから、その人たちの笑顔に気付けなかっただけ・・・・。」 シン「・・・・許して・・くれるの・・?」 ウーノ「ええ、だけど明日からは辛いときは‘辛い’ってまわりの人に言えるって約束できる? あなたのまわりには一緒に泣いてくれたり、受けとめてくれる人が沢山いるんだから・ね。」 シン「うんっ、約束する」 ウーノ「ゆびきり げんまん♪」 ウーノ・シン「「うそついたら はりせんぼん のーますっ ゆびきった♪」」 ウーノ「もう晩いから・・おやすみなさい。シン」 シン「おやすみ・・・母さん・・」zzz そして、ウーノは部屋を出ていった。 自分の行動が正しかったのか、なぜやったのかさえ分からぬまま・・・・ それから、シンは決して忘れたわけではないが『あの夢』を見なり、元の体に戻った。 そして、ほんのちょっぴり人を頼るようになった。 ただ・・・ シン「母s・ウ-ノさん、あのお話なんですが」/// ノ―ヴェ「シン・・また言ったね」ニヤニヤ チンク「さあ、甘えたいのなら。この姉の胸で甘えろ!シン兄ィ!」ダキッ シン「な・・なんだよっ・・・まったく」/// ウーノ「うふふっ、もう」 シンはウーノを‘母さん’と呼んでしまうことが多々あり、自分に困惑した。 その度にウーノは少し困りながらも微笑みで返した。 ただその微笑は聖母のようであったとか・・・・・ -03へ戻る 一覧へ
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「――――ん」 ぐったりとしたまま眠っていたが、やがてしょぼしょぼと目をこすり、妹紅は自分が誰かに背負われていることに気付く。 「ああ、起きたか?」 「シン? え……っと、あれ?」 周りを見渡せば迷いの竹林。目が覚めたばかりで少しばかり記憶が混乱しているのか首を傾げることしばし。 「姫さんとまた大喧嘩、終わったから帰るとこ。思い出したか?」 「………あー。そうだったような、違ったような」 「そうだっての、まったく」 妹紅を背負ったまま器用に肩をすくめながらも歩みを止めないシン。その背に揺られながら妹紅は気を失う前に起こったことをつらつらと思いだす。 いつもの如くの輝夜との大喧嘩、自分のパゼストバイフェニックスと輝夜のエイジャの赤石がぶつかりあう間に割って入ったシン、そして……そして? 「あれ」 「ん?」 「いや、お前が酷い目に合うのなら分かるよ、分かるんだけどさ。なんで私が気絶するわけよ?」 間。シンの視線が泳ぎ、妙な明るさで返される。 「はぁっはっは。いやさいやさ、まずは俺に謝ろうぜ?」 「やだ自業自得じゃん? つーか質問に答えようぜお客さん。なーんで私気絶してたのかなー」 にんまりと笑いながら顎をシンの頭にぐりぐりと強く押し付ける。シンのちょやめ痛い痛いという呟きは聞こえないったら聞こえない。 やがて堪忍したのか、頬をポリポリとかきながら途切れ途切れにシンが話し出す。 「いや、さあ。流石に俺も妹紅と姫さんのが全部当たると死んじゃうわけだな」 「ふんふん?」 「だから、その……まあうん、その、なんだ。姫さんよりお前の方が強力そうだったからさ」 「だったから?」 「その………お前に発勁打ちこんじゃって」 「…………ほっ、ほう」 「いや、その……悪いとは思ってます、はい」 本当に申し訳ないと思っているのだろう、それは身体を小さく縮こまらせるシンを見れば明らか。 別に妹紅は気にしてはいない、というより自分の身を守るためなら当然のことだとも思っている。 ま、だからと言ってからかわないなんて選択肢はないのだが。 「ふ~ん? シン君は女の子に発勁なんて叩きこんじゃうんだぁ、へぇーへぇー」 「いや、ちょ、おま……いや、悪いとは思ってるんだ、その、えーと……その、ゴメンナサイ」 「あーあーあー、痛いなー痛いなーシンに発勁打たれたところがいーたーいーなー」 「お前それ明らかにウソだろ!?」 「いーたーいーなー」 「………ま、まあ俺のせいなのは確かだしな。だからこうしてお前を背負ってるんだヨ?」 「ならばよし!」 満足げに笑う妹紅にシンは疲れたように肩を落とす。無論妹紅が落ちないように気を配ることも忘れない。 しばらくヘタレるシンを見て楽しそうにしていた妹紅だが、やがて何かに思い当たったのか唇を尖らせて。 「な、シン。もしかしてだけど……私を背負ってるのって、あのバ輝夜に言われたからか?」 普段のシンの朴念仁ぶりからすれば十分にあり得る。そう思い聞いたのだが、帰ってきた言葉は意外な言葉。 「まさかだろ。俺が悪いのは事実だしさ、姫さんから言われなくったってこうしてたさ」 「…………ふぅ~ん」 いや、訂正しよう。意外でも何でもない言葉だ、シンが困っている誰かに手を差しのばさないわけがなかった。 そういう奴だということを初めて会った時から今に至るまで思い知らされているのだから。 シンが前を向いていて良かったと思う。こんなふうに頬が緩んだだらしない顔はちょっと見られたくない。 そんな妹紅を知ってか知らずか、シンはぽつりと言葉を漏らす。 「まあ………」 「ん?」 「んにゃ、何でもね」 「ふぅん………」 何を言いかけたのか気にはなる、気にはなるがあまり詮索をしすぎるのもどうかと思い適当な言葉でお茶を濁す。 妙な間が開き、何とも言えない空気に。先にその空気に耐えられなったのは妹紅。 「つーかさ」 「んー?」 「割って入ったりする癖に、お前喧嘩止めろとか言わないね」 「あー。まあなんてーの、喧嘩するほど仲がいいって言うし?」 「よくねーし、悪いしー」 ドスドスと顎をシンの頭に突き刺す。だから痛いってとぶーたれるシンに構わずによくないしよくないしと繰り返しながらドスドスと。 「だから、ちょ、一旦顎やめい! だから喧嘩を止める気はないよ。でも怪我してほしくないから割って入るけど」 「別に私らは死んだりしないよ?」 こいつらしい言葉だと、くすりと笑って妹紅はもう一度シンの頭をぐりぐりと顎で押す。 「だからやめい。ん、それは分かってる。分かってるけどさ、それでも割って入るんだろうな、人間そういうもんじゃないか?」 「ふうん? まあわかったけど、一つ訂正」 「?」 「割って入るのはお前が馬鹿だからじゃない?」 「あーあー聞こえなーい聞こえなーい」 ふざけ合いながらもシンは歩みを止めることなく、ひとまず竹林の出口を目指す。どうあれお互い疲れているのは事実なのだ。 それからは二人とも言葉もなくただシンの草を踏みつけながら歩く音だけが竹林に響く。 だけど、妹紅にとっては音はそれだけではなくて。 シンの吐息と自分の吐息、そしてとくん、とくんと耳元で聞こえる自分の心音。 (……あー、だめだわこりゃ。ホント私、こいつにイカレちゃってるね) シンの身体の熱が伝わるだけで心が満たされて、同時に足りなくなっていくのが分かる。 これで十分という気持ちともっと熱を感じたいという二つの気持ち。長い人生の中でもあまり感じたことのない不思議で辛くて、それでいて甘ったるいこの感覚。 たまらなくなってシンの背にぺったりと顔を付ける。自分の方を向いてどうしたと目で聞いてくるシンにだるい、とだけ答える。 その言葉だけで納得したのか、顔を前に戻して再び歩くことに集中し出す。自分の気持ちが声にこもってなければいいのだけれど。 「………っふふ」 突如、シンが微かに笑う。ひょっとして、気付かれた? そう一瞬思いかけたが。 「ちょっと、妹紅。手に髪当たるんだけど、くすぐったい」 まあ、これで気付くんなら自分以下色々がヤキモキすることもないわけで。何も言わずに長い白髪を手に当たらないようにどかしてやる。 代わりに、色んなやるせなさを込めて髪でシンの首筋をくすぐってやったが。 「………投げ捨てるぞ、お前」 「わり。もうやんないよ、多分」 「多分ってなんだよ多分ってさ………」 呆れたような声を上げるシンにくすくすと笑ってしまう妹紅、もう一度シンの背に顔を寄せる。 ふと、シンの首筋に火傷の痕が見える。恐らくは先刻自分と輝夜の戦いに割って入った時の物なのだろう。 (痛いだろうに。死んじゃったら、私とかと違って終わるんだよお前は?) シンだってそれは分かっているのだろうに、だのにこうやって誰かのために頑張っている。手を差しのばしている。背中を貸している。 自分がシンに惹かれているのはこの閃光のような命の輝き、人間の善性を固めたようなところなのか。 (ま、それは違うんだろうけど、ね) 惹かれている理由は究極的にはないのだと妹紅は思う。シンだから。あえて理由を述べるとしたならそれがたった一つの譲れない理由。 ―――本当に、どうしようもないくらいに自分はこの男にイカレている。 だから、なのかもしれない。今こうして、舌を伸ばして首筋の火傷を舐めようとしているのは。 そろりそろりと音もなく舌を伸ばしてどんどんと火傷に近づいて。 ぴちゃり、と言う音が意外なほど大きく聞こえて。 「ぅ、わっ!? え、ちょ……妹紅?」 「ぁ………あ、ああ! 悪い、今度はホントに事故だ!」 「ん、まあお前の様子見る限りじゃそう見たいだけどな……びっくりするだろ」 「あ、ああ、うん、そう……うん」 我に返ると顔が真っ赤に火照ってしまっているのが自分でもわかる、きっと今鏡を見たら自分で引いてしまうぐらい顔が赤くなっていることだろう。 (あーーーーーーーーー、バカ、バカ……バカ、私のバカ! ないよ! 首筋、ってかどこでも火傷舐めるとか……ないって、ないだろバカ、バカ! 引かれる! これ絶対誤魔化しきれてないって、シン引いてるって! だ、大体、もうちょっと、こう、マシな流れでさあ……こんな、雰囲気もへったくれもないっていうか………あーーーーもう、バカ、バカ……バカ、私のバカ! ないって!) ぐるぐると思考がループしていることにも、この程度ではまず自分の思いには気付かないであろうシンの朴念仁ぶりにも気付くことなく自分を罵倒してしまう。 そんな妹紅の考えに気付くこともなくシンは妹紅に何か話しかけようとするが、結局なにも思いつかなかったのか口を閉じ、再び歩きだした。 結局あれから大した言葉もなく竹林の出口までついてしまう。ぴょんと元気よくシンの背から降りた妹紅はがしがしと頭をかき。 「……ん、もうここでいいよ、後は一人で大丈夫だから」 「ん、そか………ホントに」 「大丈夫だって。というかお前よりはタフなつもりだしね」 「心配ぐらいさせろって?」 「知らんねえ?」 互いに息をつく。どちらも黙っているが、決して不快ではないこの静けさ。 「んじゃあ………また明日」 「ん、また明日。おやすみっ」 「おー、おやすみー。気ぃつけてなー」 後ろ向きに軽く手を振りながら迷いの竹林を後にする。 帰り道、妹紅が考えるのはシンの背負われたこと。 (やー、やっぱないな、うん。火傷舐めるとかホントない) 本当に自分を罵倒したくなってしまう。何考えてたと自分でも思う。 思う、のだが。 「―――――へへぇ」 顔がにやけるのは、また別なのだけれど。 おまけ 永琳「そこでちゅーよっ、抉りこむようにちゅーよ!」 慧音「待つんだ八意、それはまだ早い。それよりも壁バーンのほうがだな!」 鈴仙「あのー師匠、盗聴と盗撮って思いっきり犯罪だと思うんですけど」 永琳「ちょっと黙りなさい、今いいとこ………って、何でそのまま帰すのよぅ!?」 慧音「むぅ、いい人物ではあるのだが……ここ一番で押しが無いな、足りないではなくて無い」 永琳「なんでそこで抉りこむようにちゅーしないのよぅ……あ、そうだ鈴仙、今妹紅に嫉妬したりしてない?」 鈴仙「けしかけようとしないでください!? ま、まあ嫉妬は無いですね。な、なんて言うか? シンとは、たっくさん愛し合った仲ですし?」 永琳「……………………………………え、エエ、ソウネ!」 慧音「おい、スルーしようとするな、お前の弟子の愛はスプラッタだぞ」 永琳「や。ああなった鈴仙怖いもん」 慧音「もんって………いや、もんって」 キラ「クックックーン、さあ面白くなってきたよ☆」 輝夜「一体いつ仕掛けたの、あの盗聴器と隠しカメラ………というか、何が狙いなのよ」 キラ「やだなー僕はシンの幸せを願ってるだけだよグゲゲゲゲゲゲゲ」 輝夜「わあ嘘くさい」 キラ「ふっ」 輝夜「ということにしておくわ」 キラ「!?」 輝夜「グヤグヤグヤグヤグヤ」 キラ「くっ、キ、キラキラキラキラキラキラキラ」 輝夜「グヤグヤグヤグヤグヤグヤグヤグヤ」 てゐ「いや、なんていうか。青いねー、若いってのはいいことだよ、うん。あの坊やが一番青臭いけどさ」 おまけ2 湯船に口をつけ、ぶくぶくと息をふきだす。思い返すのは先ほど妹紅を背負ったこと。 いや、正確には。妹紅を背負ったときに感じた体温と肌の柔らかさ、そして首筋に感じた熱い感覚。 「いや、ないから。あいつは胸ないから」 だけど背中に感じたふにゃりとしたあの感触は。 「んああああ゛あ゛あ゛ー! あいつにそういうつもりがあるわけないってのに、馬鹿かよ俺は!」 ばしゃばしゃと熱いお湯で顔を洗い煩悩を振り払おうとするが、妹紅の柑橘系のような匂いは頭から離れなくて、その匂いが背中の熱を、感触を思い起こして。 「だか、だから、ないって! ないから! ないから、だから『おさまれ』よ!!」 頭をガシガシと強くかきながら呻き。 どうにか色々納めようとし。 「それもこれも……全部あの姫さんのせいだ、うんそうだそうに違いないそうだと決めた」 ―――妹紅、押し倒しちゃってもいいのよ? シンが妹紅を背負ったときに、輝夜からかけられた言葉だ。 その時はタチの悪い冗談だと思って流したのだが、背中に背負った妹紅の体温に気付いた時、うっかり鮮明に思い出してしまい。 後は泥沼、妹紅が自分の煩悩に気付いてなければ奇跡か何かじゃないかと思う。というか隠し通せたかどうか自信が無い。 もうぶっちゃけアリスには完璧に振られたのだから別にいいんじゃね? なんてことは思っていない、はずである。 思ってないよね? うん思ってない思ってない。そんなあからさまな嘘を心に付きながら後は思考の堂々めぐり、無限ループへと突入するだけだったのだが。 ごんがごんがと壁に頭を打ち付ける姿は非常にアレなこと極まりなし。 「ないってーないってーマジでないってーだから無いって言ってるんだよ!!」 「うっさいのよ風呂場で騒ぐな!」 結局、アリスに頭を爆発され、気絶して湯あたりするまで呻き声は止まらかった。
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早朝、ジェイル・スカリエッティの研究所 ピピピッ ピピ カチャ シン「ん~もう朝かぁ、ん・・・・!!??」 シンは気づいた。いつもと何かが決定的に違うことに・・・ バン! シン「ドクター!!」 スカ「ん・・・どうした、こんn(ゲシッ!)ブゲェ」 眠そうなスカリエッティにシンは思いっきり蹴りこんだ。 シン「アンタ、一体僕に・・じゃない、俺に何をしたぁ!?」 そこには、ブカブカのパジャマを着て、ズボンがずれ落ちないように小さな両手でギュッと握り締めている赤い瞳の5才児がいた。 ダダダッ ぞくぞくと集まるナンバーズ トーレ「どうした!」 ウーノ「何があったんですか?」 シン「うわあぁーんウーノさん、ドクターがぁ・・ドクターがぁ・・・」 今のシンは実際見た目も子供だが、子供のようにウーノに泣きついてしまった。 ウーノ「?!・・もう恐くないですからね。ドクター、この子は?」 ニヤリ スカ「シンだよ」 チンク「この子供が・・・・シン兄ぃ?!」 シン「グスっ・・・・うん」 シンは顔を上げた。その顔は涙目になり、白い頬をほんのり赤くし女の子と見間違う可愛さをもっていた。 ズキューーーン ディエチ「これは」 セッテ「なかなか」 セイン「グッと」 ウェンディ「くるッスね」 トーレ・チンク・ノーヴェ「「「よし!私(姉)の弟になれ!」」」 -02へ進む 一覧へ
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「おっすシン、今年もよろしくだぜ」 玄関の前でシンは目を白黒とさせてぼけっと突っ立っていた。 一月一日元日の昼前、アリスの手伝いやら里での新年の挨拶やらで疲れて一息ついていたら玄関からノックの音。 誰か挨拶にでも来たのか、それともチビッ子がお年玉でもねだりに来たのかと開けてみたら魔理沙―――おそらく魔理沙からの新年のあいさつ。 普段は窓から侵入してくる彼女にしては珍しく扉から、それもノック付きで普通に入ってきた。 だが、シンが面くらったのはそんなことではなく。 「お、おい、なんか言えよ、不安になってくるだろ」 「あ? ああ、悪い、あけましておめでとう魔理沙………魔理沙だよな?」 服装。普段の帽子をかぶった白と黒の魔法使いらしい服装ではなく正月らしい振袖。 彼女にしては珍しく行事を感じさせるその服装に思わず言葉を失ってしまった。 シンの言葉に案の定魔理沙はぷくぅっと頬を膨らませる。 「どういう意味だよそれは、私がこんな格好しちゃ悪いってのか?」 「あー、いや、すまん。そういうつもりじゃなかったんだけどな………」 「じゃどういうつもりだよ」 「新鮮だったからな、すこし驚いただけだよ………つーか珍しいな、お前がこういう行事に乗っかった服着るのって」 「不満か?」 「いや、似合ってるよ」 さらりと言われた言葉に魔理沙はならいいんだよと言いつつ嬉しそうに頬を染める。 やっぱりこの男から褒められると嬉しさでくすぐったくて仕方がない。 むず痒くて何ともいえず胸が苦しくなってしまうが、それは決して不快なものではなくて。 「アリスなら部屋で休んでるぞ、呼ぼうか?」 「あー、いやいいぜ。疲れてるんなら無理に呼ばなくても」 そう言いながら魔理沙はぼんやりと今日起きてからのことを思い出していた。 昨日は霊夢も早苗も正月の準備で忙しそうだったから一人で夜更かしして初日の出でも見ようかと思っていたのだが途中で寝落ち。 起きたらもうとっくに日が昇っていてこのまま寝正月でもいいかーと考えたのだが。 直後にシンの顔が脳裏をよぎり、同時に今日博麗神社で何が行われているのかに気付いて。 慌てて箪笥の奥にしまってあった振袖を引っ張り出して悪戦苦闘しながらどうにか着て今に至る。 要するに、今日、新年で魔理沙が初めて言葉を交わしたのが目の前にいるシン・アスカなのである。 そのことに気づいて嬉しさと気恥かしさで口元が緩んでしまいそうになるがどうにかこらえる。 まだこの振袖を着た目的を果たしてはいないのだ、このぐらいで満足しているわけにはいかない。 「それよりさ、シン。その、えーと。ああと………あ、あけましておめでとう!」 「あ、うん、おめでとう。今年もよろしく」 「えーと、だからさ、その、あの………あ、あけおめなんだぜ!」 「そうだな、もう三回目だぞ?」 「あう。だから、そのぅ………は、初詣。いかないか?」 言った。どうにか勇気を振り絞り誘えた。このために普段着ないような振袖に腕を通したのだ。 どきどきと心臓を鳴らしながらシンの返事を待つ、ほんの僅かなはずの時間がとても長く感じられて。 そんな魔理沙の心情を知る由もないシンは一瞬キョトンとした顔を浮かべたが。 「そう言えば行ってないな、初詣。昼飯にはまだ早いし………そうだな、じゃあ今から行くか」 「お、おう」 快諾するシンに魔理沙は身体をカチカチに緊張させてどうにか頷く。 と、シンが奥に向けて声を上げる。 「おーい、アリスー。魔理沙が初詣に行かないかーって」 まあ、魔理沙からしてみれば予想できていたことだしむしろ望むところである。 シンと二人きりで初詣だなんて心臓が止まりかねない、アリスがいてくれた方が心境的に楽だ。 しばらく沈黙が返ってきたが、やがてドタバタとアリスの部屋から音がして。 「あけましておめでとうっ、魔理沙!」 「お、おう、今年もよろしくだぜ、アリス」 息を切らせてアリスが姿を現して挨拶をしてくる。 思わず少しのけ反りながらも魔理沙も挨拶を返した、後はアリスが着替えるのを待つだけだと思っていた。 のだが。アリスから返ってきた言葉は意外なもので。 「ごめんなさいね魔理沙、初詣はまだちょっと忙しくて行けないのよ」 「え、そうなのか? そりゃ残念だぜ」 「だからシンと一緒に行ってね?」 「そういうことなら仕方がな」 きっかり三秒固まり、アリスの言葉の意味が頭に浸透してくると。 「う、うぇい!? な、な、な、なんで」 「忙しいんなら仕方がないか、お前の分まで拝んでおくよ」 魔理沙の動揺に意外そうな目を向けながらもシンはあっさりと納得する。 だが魔理沙からしてみれば想定外もいいところだ、これではシンと二人っきりになってしまうではないか。 あれ、それっていいことなんだっけ悪いことなんだっけと葛藤する魔理沙を仕方がなさそうに苦笑しながらアリスはシンに耳打ちする。 「分かってると思うけど、魔理沙になんかしたらひどいからね」 「はいはい、よーく分かってますよアリスおぜうさまーっと」 「ちなみに何もしなくてもひどいからね」 「俺にどうしろというんだ!?」 そんなこんなでシンと魔理沙は博麗神社についたのだが。 「予想以上に多いな………流石正月だな、魔理沙」 「そ、そ、そ、そうだな。うん、流石は正月だぜ」 何がどう流石なのかは魔理沙にもよくはわかっていない。というより神社までどうやってたどり着いたのかも曖昧だ。 二人っきりでどこかに出かけるということがここまで緊張するものだとは思わなかった。 周囲にはたくさん人がいる、そのことは分かってはいるのだがどうしてもすぐ側にいるシンを強く意識してしまう。 「しっかし、振袖着てきたときには誰かと思ったよ」 「に、似合わなかったか?」 今更になって不安になってきた、シンはああは言ったが本当は自分に気を使ってくれたんじゃないかと思えてくる。 しかし、そんな魔理沙の不安が伝わったわけではないのだろうがシンは笑って首を振った。 「そんなことないって言ったろ、綺麗だと思うけど」 完全な不意打ちに思わず固まってしまった。前々からこういう不意打ちが上手い奴だとは思っていたが、ここまで不意を突かれるとは思わなかった。 立ち止まってしまった魔理沙にシンは不思議そうな顔を浮かべる。 「どうかしたのか?」 「…………な、なんでもないぜ。たださ、なんていうか」 「うん?」 「…………やっぱり、何でもないぜ。なんでもないんだけど、さっ」 心臓がばくばくいっているが、ここで言わなければきっと後悔するだろうという直感があった。 だから、勇気を出さなくては。 「あ、ありがとうな、褒めてくれて」 はにかみながらも、どうにか言えた。ただの感謝の言葉なのにどうしてこうも胸が高鳴ってしまうのか。 始末の悪いことにその胸の高鳴りも決して嫌なものではないと魔理沙は思っていて。 シンの言葉に動作に一喜一憂して、その全てが嬉しくてたまらない。 シンと会う前では考えられなかったことだ、そのこともまた嬉しくて。 魔理沙の言葉にシンはくすりと笑い、どういたしましてと返す。 シンからしてみれば見た感想をそのまま言っただけだ、それでここまで喜んでくれるとこちらまで嬉しくなってくる。 「ところで魔理沙、何お願いするのか決めてるか?」 「お願い………ま、まあ当然決めてるぜ、内緒だけど」 今ちょっと叶ってるけどな。そう小さな声で呟いた言葉はシンの耳には届くことはなかった。 「そっか。俺は………うーん、世界平和かな」 「また大きく出たな、いくらぐらい出すんだ?」 「55円。ご縁がありますようにってさ」 「そんなはした金で叶うのか、世界平和?」 「っていうより、55円でこき使ってやるの、神様をな」 悪戯っぽく笑うシンに思わず魔理沙もつられて笑ってしまう。 55円でこき使われる神様という構図も、そんなことを思いつくシンもなんだかおかしかった。 「お前って、神様信じてるんだか信じてないんだか分かんないな」 「神様に祈って上手くいったら信じる、上手くいかなかったら信じない」 「適当だなあ」 「そんなもんだろ、普通に生きてればその程度だよ」 霊夢と早苗には悪いけどな、と続けてもう一度、今度は屈託なく笑った。 その笑顔に魔理沙は一瞬見惚れるが、すぐに赤くなって目をそらしてしまう。 「と、そろそろか。それじゃ、世界が平和でありますように、っと」 お金を放り投げて賽銭箱に入れると紐を引っ張り鈴を鳴らして手を叩く。 しばらく目を瞑っていたが気がすんだのか目を開けて参拝客の列から抜け出した。 もう参拝が終わってシンの顔を見ていた魔理沙もシンを追うようにして列を抜ける。 「さて、どうする魔理沙、お守りでも買って帰るか?」 「それもいいんだけど、ちょっと疲れたぜ。中入ろうぜ中」 「中って、神社の中か? 流石に不味い気が」 するからやめた方がいい、と言おうとしたのだがそれよりも早く魔理沙は神社の裏に回ろうとしていて。 ため息を一つついて魔理沙の後を追う、中で休むためではなく彼女を止めるために。 「へっへ、思った通り誰もいないな。広々としてこりゃいいや」 ごろん、とだらしなく横になった魔理沙にシンは肩をすくめる。 勝手知ったる他人の家と言わんばかりに上がりこんだ彼女を何度か止めようとはしたのだが。 「罰あたりもいいところだな、というか霊夢に後で怒られるぞ?」 「いいのいいの、ただ休むだけだからばれないって」 「そういう問題じゃないだろ、全く」 そう言いながらもシンもその広さには心惹かれるものがある。 この広い和室に大の字で寝転んだら気持ちいいだろうなという微妙な誘惑を断ち切って縁側に腰掛ける。 「少し休んだら出るぞ、ばれたら霊夢からそりゃもうえらいことされるからな」 「あー、それは確かに………よっし、じゃもう行くぜ」 「早いな、いいのか?」 「十分休んだし平気! じゃ、後はお守り買って………そっからどうする?」 「里で何か入れるか、屋台ならやってそうだしな」 頷き立ち上がる、しかしその振袖は少し乱れてしまっていて。 魔理沙もそのことに気付いたのかしまったと言いたげな顔を浮かべている。 「着つけは一人でできたんだろ?」 「全部脱がないと流石に………」 やれやれと肩をすくめて縁側から立ち上がる。 せっかくの正月なのだからとアリスが上海人形達に振袖を着つける手伝いをしていた。 人形と人間というサイズの違いはあるが、少々乱れた程度ならばシン一人でも直せると判断。 「動くなよ、これ以上崩れると直せないから」 「直せるのか?」 「アリスの手伝いぐらいだけど、まあ何とかなるだろ」 言うが早いか帯に手を伸ばそうとする。シンからしてみればそうしなければ直せないのだから当然なのだが、焦ったのは魔理沙だ。 肌が見えてしまうのではないのかと気が気でない。 「え、えーと。見ちゃやだぜ?」 「………出来るだけ、見えないようにはするよ」 しばらくは外の喧噪に交じって衣擦れの音が聞こえるだけだったが、沈黙に耐えきれず二人とも視線が泳いでしまう。 そう、二人ともだ。魔理沙だけではなくシンもなんとなくの居心地の悪さを感じていた。 その理由は視線を下ろせばすぐに目に入る魔理沙のうなじ。 魔理沙が見ないでと言わなければ気にも留めなかったそれに気を抜くと視線が吸い込まれそうになってしまう。 (何考えてるんだよ、俺は!) そんな風な目で見るのは魔理沙に失礼極まりないこと。それに霖之助もいい気分はしないだろう。 口調こそ素っ気ないが、彼にとって魔理沙がどれだけ大切な妹分かぐらいシンにだってわかる。 そんな魔理沙に、そういう目を向けるなどどうかしている。どうかしているとは思うのだが。 帽子もかぶらずいつもとまるで違う衣装の彼女は、とても可愛らしくて。 「いや違うから」 「うぇ、な、なにが!?」 「あ、いや、何でもないよ」 可愛らしい、というのはまるで人形のような、である。まかり間違っても魔理沙を一人の女性として意識したということではない。 断じてない、ないったらない。特に根拠はないが絶対にないのだ。 その証拠に魔理沙に「かわいいね」と言うことぐらいなんてことは。 (ない。けどまあ、わざわざ言うことではないよな、うん) 人それをヘタレと言う。もっともヘタレ云々は魔理沙にも言えることなのだが。 後ろを見ればシンの苦悩の顔を見ることができるというのに、肝心な魔理沙はと言うと。 (どどどどどど、どうしよ、なんかシンの息が聞こえるー!?) テンパったまま固まっていた。ヘタレなことこの上ない。 しばらくはそうやってヘタレ二人は黙っていたが、沈黙に耐えきれずシンは大きく視線を動かして外を見た。 別に気不味くない疲れただけ疲れただけとヘタレ全開な言い訳を心の中でしながら。 何とはなしに外を眺めていた、その時だ。 キラがいた。心底嬉しそうな満面の笑顔を浮かべて外に。 「…………え?」 が、一瞬瞬きをした瞬間にどこかに消えてしまった。 気のせいなのか、と思うが見間違いとも思えない。 じっくりと見ていたら魔理沙がどうかしたのかと聞いてきた。 「いや、いまキラさんが」 「キラ? いないじゃないか」 きょとんとした顔で魔理沙に言われ、やはり見間違いだったのかと首を傾げる。 一瞬のことだったし、そう言われると自分の勘違いだったような気もしてくる。 「ま、あの人がいたらいたで声ぐらいかけるか」 そして余計なちょっかいも。それがないということはやはり見間違いか。 そう結論付けて振袖の帯を改めて締め直す。 「よし、出来たぞ」 「おう、さんきゅ。で、これからどうするんだっけ?」 「おいおい………お守りを買って、いったん何か食うんだろ。それから守矢神社に行くのもいいかもな」 「早苗んとこか。そだな、行ってもいいなー。でもまずはご飯だぜ」 話がまとまり二人はどこで食べようかと相談しながら靴を履き直す。 靴をはいて立ち上がり、シンは謝罪の意味を込めて神社の中にぺこりと一礼を。 早く早くとせかす魔理沙に苦笑しながら表に出てお守りを販売している列に並ぶ。 さほど並んでおらず、これならすぐにでも買えるな、アリスの分も買おうかと思いぼんやりと列を見ていた。 その先を何となく見ていると、巫女服を着て手伝っている見知った顔を見つけた。 向こうもこちらに気付いたのか、おやという表情を浮かべる。お守りを買っていった参拝客が列から外れていきシン達の晩になり。 「あれ、デスティニーじゃないか、あけおめだぜ」 「うむ。久しぶりだね、ご主人に魔理沙」 「霊夢に地霊殿から引っ張り出されて手伝わされてるのか、デスティニー」 「まあそんなところだね、霊夢はご主人も駆りだそうとしていたらしいがね」 が、とはどういうことなのか。くい、と顎でしゃくるようにしながらシンの背後を指差す。 何かと思い見てみれば、本殿の中で破魔矢やらなにやらを参拝客に手渡している霊夢の姿、そしてその隣で手伝っているのは。 「キラさん?」 「何故かは知らないが、先ほど急に来て手伝うと言いだしてね。何を企んでいるのか」 「企むとかは知らないけど、珍しいな、あの人が働くとは」 「お前らひどいな? いや私もそう思うけど」 キラもこちらに気付いたのかキラッ☆とポーズをとって挨拶をしてくる。 「いらっ★」 「正月早々喧嘩はやめい。ふーん、相変わらず何考えてるのかよう分からんな」 「いつものことだがね。さっきもどこかに行っていたし………それで、お守り。買っていくのだろう?」 「おう、そうだったそうだった、どれにするかな………アリスにはどれがいいと思う、魔理沙?」 そう言われ魔理沙は少し考え込む。勉強関係でもいいのだろうが、アリスは何となくそう言ったものに頼るイメージがない。 色恋沙汰も、まあないだろう。とするとやはりここは無難に。 「やっぱり家内安全とかがいいんじゃないか、それか健康祈願とか」 「出産祈願があるけど」 「刃物持ち出されていいんなら買ってけば? 知らんぜ私は」 「ソダネ………んじゃ家内安全でいいか」 「ならばご主人は健康祈願を買っておきたまえ、身体が資本だろう?」 そうだな、と頷きデスティニーの手からお守りを受け取る。 魔理沙もどれにしようかなと考えていたら、デスティニーがお守りを差し出してきて。 「恋愛成就。これじゃないかね?」 小声でそっと魔理沙に囁いてきた。その顔は悪戯っぽく笑っていて。 デスティニーの気持ちは実のところありがたい、こういった神頼みにも縋りたい心境ではある。 ある、のだが。 「ごめん、せっかくだけどいいよ」 断った。それが意外だったのかデスティニーにしては珍しくぱちくりと目を白黒させている。 一瞬そうしていたが、シンが怪訝な顔を浮かべたのに気付くと軽く咳払いをした。 「………いいのかね?」 「うん。まあなんていうか、願ってばっかりじゃ駄目かなあ、とか、そういう、なんていうか」 後半はしどろもどろになりながらだったが、それでもお守りには頼らないという意思。 そんな魔理沙をデスティニーはしばらく見ていたが、彼女が何を思ってお守りを断ったのかに気付くと静かに微笑んだ。 「なるほど、ね。そういうことか………相変わらず乙女だね、君は」 「いや、別にそんなんじゃなくてだな」 「そんな乙女な君に、はい、お揃い」 健康祈願のお守り。これぐらいはいいだろう、と唇を持ち上げるデスティニーに魔理沙は何度か頷く。 神様には頼らないつもりだが、それでもお揃いというのは何かうれしいものだ。 「へへぇ、ありがとなデスティニー」 「そろそろ詰まってきているな、すまないが」 言われて後ろを向くと列が中々に長くなっていた、後ろに並んでいた人に頭を下げて二人は列から外れる。 健康祈願のお守りをしばらく眺めていた魔理沙だったが、シンの興味深そうな視線を感じて首をかしげた。 「なんだぜ?」 「いや、元気なお前らしいなって。それじゃ、ご飯か。俺が奢ってやるよ」 「お、太っ腹だな。んじゃあ、高級キノコ料理を」 「ベニテングダケとかでいいか?」 冗談交じりに反しながら里に続く階段へと向かう。 と、ふと思い出したようにシンが魔理沙に訪ねてきた。 「そういやさ、お前は何を願ったんだ? 俺だけ言うってのは不公平だろ」 「うぇ? あ、いやー、それは、えーと………ひ、秘密だぜ」 「なんかずるくないかー」 「高級キノコ料理をあきらめてやるからそれで勘弁してくれい」 やれやれ、と肩を竦められたが、とてもじゃないがシンに言うわけにはいかない。 もし言ってしまったら、気づかれてしまったら心臓が爆発する自信がある。 (言えるわけないぜ、あんな――――) シンに、自分からアプローチできますように。 願いではない、誰かからの手助けではなく自分でどうにかしたい。そんな決意を込めたことを祈っていた。 気恥かしくなりながらも何となく思う。 今年も、いい年でありますようにと―――― 278 :シンの嫁774人目:2013/01/14(月) 23 54 23 ID VE2VqMa. 今、ハルヒクロスやったらジョジョネタだらけになるんだろうな。 「ハルヒ、お前の次に吐くセリフは"遅かったじゃない、何してたのよ"だ!」 「遅かったじゃない、何してたのよ…ハッ!?」 「テメーはこの小泉一樹が直々にブチのめす」(オセロ) みたいな感じで。 おまけ・1 「どうにか少しはけたわね………にしてもキラ、あんたが手伝うとは意外だったわ」 「僕がやらなけりゃシンに頼むつもりだったんでしょ?」 「まあね。それがなんだっての?」 「クックックーン、そういう主人公フラグが立ちそうなことをシンにやらすわけにはいかないね、なぜなら主人公はこの僕だから!」 「ふーん」 「何その反応、冷たいね。興奮するよ」 「シンは関係なかったんだ。私はてっきり」 「シンと魔理沙がいい雰囲気だったからそれを壊すのもどうかなーって思って代わりに手伝いをかって出たのかと思ってたけど」 「もももももちろんさあそそんなわけあるわけわけわけ」 「そっかー、違うのかー。私の勘って案外大したことないわね。そう思わないキラ?」 「ソウデスネ、トッテモソウオモイマスデス」 「…………」 「…………」 「あんたは本当にシンのことが好きなのね、若干ウザい程に」 「違うよ!? これはその、そういうアレじゃないよ!?」 「はいはいじゃあそういうことにしとくからチャキチャキ働きなさいな、ほら、参拝客が来たでしょ」 「本当に違うからね、そういうことじゃないんだからね、違うからね!?」 「いいから働け」 「うう………で、どこに」 「あけましておめでとう、キラ(CV.石田彰)」 「あばよ涙!!!」 「よろしく勇気(CV.石田)」 「うあああああああああああ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」 「今年もよろしく(CV.石(ry)」 「はい、よろしくー。キラ、手を止めない」 おまけ・2 「…………なんか今、ツッコまなきゃいけないことがあったような」 「気のせいだろ。そんなことよりあけおめだぜ、早苗」 「いえいえ、こちらこそ今年もよろしくですよ。わざわざ来てくれてありがとうございます」 「なんもなんも。忙しそうだな、いいこと………なのかな。俺にはちょっとよく分からないけど」 「参拝客に妖怪さんが混じってるのが気になりますけどね」 「博麗神社でもそうだったし、幻想郷ではそんなもんだぜ?」 「はあ、なるほど。やはり幻想郷では常識にとらわれてはいけないのですね」 「ブン投げていいわけじゃないと思うけどな。そう言えば諏訪子さんはどうしたんだ、なんか見てないけど」 「諏訪子様なら神奈子様にコキ使われてますよ? なんでも」 「ヒャッハーーーーー男と女はれいぽうだーーーーーーーーーー!!!」 「オンバシラステーク!!」 「メメタァ!?」 「………理由は全く存じ上げないのですが、ええ全く」 「そっかー分かんないならしょうがないなー。にしても、結構見た顔がいるな」 「お、ホントだ。大妖精にうどんげに妹紅に幽香に、ほかにも色々いるぜ、ってどうした早苗、頭抱えて?」 「い、いえ、なんでも。ただなんていうか、地雷原でスキップしてる気分というかなんというか」 「よく分かんないこと言うな、ちょっと俺挨拶してくるよ」 「あ、じゃあ私も行くぜ、直接会う手間が省けたな」 (危機感ーーー!! もっとNTR的な危機感持って下さいよ魔理沙さーーーん!! 危機感の原因の一人が言うのもあれですけどーーーー!!!)
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「よっす、トリッカトリー」 明日の分の薪を割っていると、背中に声をかけられた。鉈を置き、振り向くと白い髪と上着に赤いモンペとリボンの少女。 藤原妹紅がひょい、と気さくに手を軽く上げている。 「妹紅か、トリッカトリー。つか、珍しいなこんなとこに」 アリスに聞かれると張り倒されそうな発言だが、実際問題もう夜も深いというのに魔法の森をうろつくのはただの人間なら自殺行為以外の何物でもない。 珍しいの一言で済ませられたのは彼女が死ぬことは絶対にあり得ないということを知っていたからこそだが、だとしても。 「夜にこんなとこに来るもんじゃないだろ、危ないなぁ」 シンの言葉に、来たくて来たわけじゃないと前置きすると妹紅は憮然とした表情で肩を竦める。 「あのヤブに茸とってきてくれって頼まれたんだよ」 「ヤブ? ああ、永琳さんのことか。いや、あの人ヤブ医者じゃないだろ、俺あの人より腕いい医者会ったことないぞ」 「いーや、ヤブだねヤブ。輝夜みたいなのに仕えてるんだぞ、その時点で十分ヤブだって」 拗ねたように口をとがらせる妹紅に流石に呆れる。 「なんぼなんでもそれは偏見だろ………つかね、姫さん嫌うのもいいけど、評価するとこは評価しとけって。それじゃただの嫌な奴だろ」 「ご忠告どうも。でもな、それをお前が言うかね? 正味な話お前にだきゃあ言われたかないんだけどな」 耳が痛い。国家元首に対して暴言を吐いた16歳、狂犬と呼ばれても仕方がないような事を繰り返していた自分を張り倒したくてたまらない。 どうしてもっと論理的に話せなかったのか、どうしてもっと個人的な感情を抑えられなかったのか、どうしてもっと自分以外のことに目を向けられなかったのか。 発言自体は後悔していないが、もっとマシな伝え方は無かったのか。あれじゃあただの言い逃げでしかない。 そりゃあまあ確かに、今でもウズミ前代表の行動は到底許容できるものではないが、何だってその娘に対してやつあたりじみたことしか言えなかったのか。 というか、そもそもそんな喧嘩腰の言い方で耳傾けるやついると思ってんのかよこのバカ、無責任にも程があるだろ! そう16歳の頃の自分の耳元で怒鳴れたらどんなに楽だろう。 ……そんな黒歴史を思い出し微妙に自己嫌悪に陥っていると、妹紅が怪訝な眼で見つめていたので軽く頭を振る。 「まあなんにしても、永琳さんはヤブじゃないだろ」 「どうだか……つかさ、お前の場合、永琳が巨乳だからかばってるんじゃないかって気がするな?」 「ソンナジジツハゴザイマセンコトヨ?」 分かりやすい男である。 「いやいやいや、そんな胸で女性を判断するなんてそんな、ほら、あれだ、ほら……なんだっけ、い、いけないことだよっ」 「ふーん………ところで胸大きい女は好きか?」 「大好―――愛してる」 本当に分かりやすい童貞である。 「お前って奴ぁ……ま、どーせ私にゃ胸はねーですよ?」 「いやだからな、ホントに胸は関係ないって………」 ため息。二人とも黙りこむ形になり、木々のざわめきや蟲の泣き声だけが辺りを包む。 んー、と喉の奥で唸りながら妹紅は頭をかいていたが、軽く息をつき。 「トリッカトリー」 「ん、おお? トリッカトリー。もうお菓子ないけどな」 「ふぅん。妖精あたりにたかられたか?」 「別に妖精だけってわけじゃないけどな」 朝から本当に忙しかった。チルノや大妖精、ルーミアやら橙といったお子様から始まり魔理沙やら早苗やらetcetcetc。明らかにハロウィンに興味がなさそうな人まで来ていたのはどういうことなのやら。 そういえば、幽香が何か言いたげに一日中こちらを見ていたが何だったのだろうか、まさかお菓子が欲しかったりわけではないだろうが。 最後に来たのは神綺だ。素肌に包帯を巻きつけただけの姿で「シン君シン君、お菓子をもらいに来ましたよ―。あ、アリスちゃんどうこれ? ミイラだよー、マミーだけに!」などと言いつつ家に入ってきたときのアリスの他人を見る目が忘れられない。 つい先ほどまでアリスにもう二度とお母さんって呼ばないと言われ涙目になっていたのは何ともいたたまれない姿だった。……別に、頭を下げるたびに見えそうになるさくらんぼは気にしていない。いないったらいない。 「そういや優曇華院も来てたな」 「んぅ? ああ、鈴仙のことか」 永琳に茸を渡す時にちらりと見えた彼女のことを思い出す。そう言われれば鈴仙・優曇華院・イナバは妙に嬉しそうに……… 「……嬉しそうに、パイナップル弄ってたな」 「いやさ、くれって言うから」 そんな理由で乙女に手榴弾渡す阿呆は世界中探しても………いや一人ぐらいはいるかもな、関智一ボイスのが。 「爆発したらどうすんだよ!?」 「バ、バカ、ダミーだ! 本物やるわけないだろ!?」 「ホントかよ………?」 疑わしげな眼で見られる。この男、鈴仙が絡むと鈴仙ともどもどっぷり狂気に浸り合うことがあるので今一信用ならない。 「……まったく、お前ってやつぁ」 「………すまん。今思うとあれは無かった」 「ホントだよ……」 「だよなぁ………」 ぐでぐでとした会話、妹紅と話しているとどうにもこんな流れになることが多い。 れっきとした女性の妹紅には悪いが、男友達と話すような気楽さがあるのもまた事実。 「ま、なんにしてももうお菓子は無いわけだ?」 「おう、完売だ。もう飴玉一つないぞ」 なるほど、と呟いた言葉は今日のことを思うシンの耳には届かなかった。 それにしても、本当に忙しかった。前日前もって用意しておいたお菓子は午後に入るまでもなく無くなり、こいつはやべぇとばかりに午後からは客の応対の合間を縫って簡単なお菓子を自作。 薪を割る暇もなかったのでこうして夜も更けているのに薪を割っているぐらいだ。 「ま、暇なよりはいいんだけどさ。つかどうした妹紅、さっきから黙って」 「ああいや、もっかい聞くけどお菓子は無いんだな?」 「なんだ、食べたかったのか? 明日作っとくから今日は勘弁してくれい」 その言葉を聞き、くすり、と唇を上げる。 「そっか、無いのか。じゃあ」 「いたずらしても、いいわけだ?」 「っ!?」 一瞬で距離を詰められた。普通に話していた先ほどまでとは違い、十センチもない距離に妹紅の顔がある。 まつ毛も赤い眼も―――唇さえもすぐそばに。 「お前さ、ちょいと無防備すぎやしないか。そんなんだから」 ふ、と妖艶に笑う。こんな表情をされると嫌でも千年生きた蓬莱人だということを強く実感してしまう。 「そんなんだから、近づかれるんだよ。こんな近くに、さ」 頭がショートして言葉が思いつかない。何度か息をつき、ようやく口を開く。 「なん、だよ。なんでまたこんな顔近付けて」 「んん? いやいや、言ったろ? いたずらだ、って――――動くなよ」 言われずとも動けない。普段はそのはすっぱな言動で気にすることもないが、紛れもなく藤原妹紅は美少女なのだから。 そんな顔が近くにあるのだ、これでひょいひょい動けるほどシンはジゴロではない。 微動だにしないシンに満足そうに薄く笑い、さらに顔を近づけていく。 「なに、を」 「ホントお前、無防備すぎるんだよな。だからさぁ」 もう、すぐ数センチのところだ。僅かに顔を動かすだけでも唇に触れてしまいそうなほどのすぐそば。 「痕、つけとかなきゃ」 喋るたびに妹紅の息が口にかかる。まつ毛まで触れてしまいそうだ。 あと、ほんの数ミリ。心臓はうるさいほどに打ち鳴らされている、息も自然と荒くなる。初めての実戦でもここまで胸が高鳴ったことは無かった気がする。 視界に映るのは妹紅の紅い眼だけ。そうして、妹紅の唇が、重なる―――― ――――直前に、ごっ、と額に鈍い衝撃が走った。 「う、え? え、あ、え、う、うう? え、は、えあ、うぇ?」 痛かったわけではない、ないが意味が分からない。妹紅を見るとぷるぷると震えて―――笑いをこらえていた。 「嘘だ馬鹿。お前、反応面白すぎ……っ」 「……アンタって人は……アンタって人はぁ…………アンタって人は………っ」 がっくりと打ちひしがれる。あそこまでいけば流石にシンも期待する、そういう意味で言うのなら妹紅のいたずらは完全に成功したのだろう。 からからと妹紅は楽しそうに笑う。 「や、悪かった悪かった。だがま、お菓子用意してなかったお前が悪いってことで勘弁してくれ」 手を振り、そのまま森の中へと妹紅は消えていった。 茫然としたままシンは座り込んで動けない。ようやく絞り出せた言葉は。 「……もったいなかったかなぁ」 あともう少し顔を動かせていれば、という口惜しさがそう言わせた。 妹紅とそういう関係になりたいわけではなかったが、それでもそれなりに感じ入ることだってある。妹紅も、もしかしたら。 「いやいやいたずらだって」 首を振って考えを追い出す。少なくとも自分がうろたえまくったのだ、いたずらなら十分だろう。 そう思い直しまた薪割りに戻っていった。 ………もし、誰かいたら気づけよとツッコミを入れられただろうが誰もいないからシンが気づくわきゃない。仕方がないね。 「おう、慧音か。わざわざ出迎えることはないだろ」 「まあそう言うな。心配ぐらいしたっていいだろう?」 「物好きだねーお前も。まあいいけどさ」 「……妹紅、どうかしたのか? 妙に顔が緩んでいるが」 「んー? いやいやなんでもないよ……………にへへ」 おまけ 「………と、もう出口か。そう言えばさ、慧音はシンのことどう思ってるんだ?」 「あの少年か。そうだなぁ、真面目で実直、そして心優しい、ってところか。ま、好ましいな」 「へ、へぇー、そうか、そうか……そうかー。あ、あのさ、慧音」 「ん、どうした?」 「………その、卑怯な言い草だとは思うんだけどさ」 「うん?」 「と、とるなよ?」 「(キモッ☆)」 「ど、どうした満月でもないのにハクタク化して!?」 「ああ、済まない済まない、ちょっと押し倒したく、じゃなくてリビドーが抑えきれなくなって」 「……よくわからんが、そうか」 「ああ、そうなんだ」 「………まあ、いいけどな」 「それで、なんだったか。そうそう、心配するな、好ましいのはあくまでも人間性だ、男性としてはそこまで魅力は感じないよ」 「ふ、ふーん、そっか、そっか……そっかー。………や、やっぱ慧音ぐらい胸無いと駄目かな? うう、ここまで蓬莱人なのが悔しいのは初めてだ……」 (うぅむ。あの無関心な妹紅をここまでいかれさせるとは……何をしたんだろうな、あのシン・アスカは) 「が、頑張って揉めば大きくなるかも……髪だって黒から白に変えられたんだし、できないことはない……はず」 (………まあ。妹紅かわいいからどうでもいいか) おまけ2 「やあシン、トリックオアトリート! どうせお菓子ないだろうから性的な意味でいたずらを、し、しちゃうんだからねっ!?」 「帰れ」 「なんだいなんだい冷たいじゃあない。いわゆるアレ? 放置プレイ? 悪く言っちゃうと、欲棒?」 「ホントキラさん死ねばいいのにね? ……でもま、やられっぱなしはイヤなんで、今回は俺がいたずらをしようと思います」 「え……何この展開。ベーコンなのレタスなの?」 「あっはっは。さあ、そのまま飲み込んで下さい、俺のアロンダイト………」 「………ええと、シン。その手に持ってる対艦刀はなんなのかなー。僕すっごくイヤな予感がしちゃうよ?」 「飲み込んでください」 「………それはもちろん比喩的な意味なんだよね、いやん、シンったら大胆」 「あはは、比喩的な意味なんて込めるわけないじゃないですか? さ、飲み込んで下さい。呑みこまずに」 「いやいやいや、そんな無理無理無理無理大きすぎる……らめぇ! そんなおっきいのこわれちゃうよぉ!」 「いいから飲めっつってんだよ!!」 「らめぇらめぇらめ、いやちょ、まっ、アゴ外れるー!?」 「飲めっ、飲めーっ!!」 「アッーー!!」 「ちょっと騒ぎすぎましたね、アリスから怒られちまったい」 「えーとシンさん包丁ぶっすり刺さってんすけど?」 「まあよくあることですよ。……用は済みました? よし失せろ」 「まだなんにも言ってないのにね? まあいいや、それじゃあまた明日―――」 キラアッーーーーー―――……………! 「………(ガクガクブルブル)」 「アスランの遠吠えだ、今日もまた一日が終わろうとしている」 「現実逃避してるんじゃないわよ。どうすんのよコレ、震えて動かないわよ?」 「あー……すまんアリス、この人泊めていいか? このまま帰すとえらいことになる」 「まああんたの部屋に泊めるんならね。というか、流石にほうっておくと罪悪感が……」 「あ、あの、ごめんね? ホントごめん、ごめん、ホントにごめん、ごめんね、ごめん、ごめん、ごめん……ごめんなさい」 「いやいいんですけどね……相変わらずアスラン絡むと素に戻りますね」 「え、あ、う、うん、ごめん」 「いやいいんですけどね……」 「僕は、君を信じてるから………」 「キラさん……あのすいません、脈絡がないうえに若干キモいです」 「え、う、うん、ご、ごめん」 「いやいいんですけどね……待て! なんかループしてる! ああもう、いいから寝れ寝れ」 「あ、う、うん、ごめんね、ごめんね、本当にごめんね?」 「あれ、素?」 「あれが素」 一覧へ
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見切りガード・・・DUEL SAVIORシリーズの戦闘システムの一つで、敵の攻撃をいいタイミングでガードボタンを押すとピキーン!と音が鳴って ダメージを受けないついでにすぐにコマンド入力可能と便利なシステム。 分かり易く言えばメルブラのシールドである。 シールドとは違って、技によってはタイミングがたまに違ったり、何回も押さないといけない技もあるので注意が必要である。 シン「ねんがんの 見切りガードをマスターしたぞ!」 大河「ニア 殺してでも うばいとる というのは冗談で、何に使う気だ?」 シン「はやて隊長達の魔法攻撃をまともに受けてたらいつか死ぬかもしれないと思い、なら受け流そうという結論に達した」 大河「はやて隊長って・・・シンが逃げてくる前の所に居たってヤツか?」 シン「ああ、見切りガードはちょっとナナシに頼んで練習させてもらった。」 大河「そういえば、ナナシが「遊び相手が増えて嬉しいですのぉ~♪」とか喜んでたけど、シンの事だったのか」 ドゴォォォォン!!!! 大河「なんだ!?今の爆発音は・・・空からか?」 シン「もう見つかったか・・・というよりどこまで追って来る気だorz」 はやて「やっと見つけたで!シン!さあ、元の世界に帰ろか」 なのは「シンは一回、頭冷やそうか・・・」 フェイト「そうだね、冷やすといいよね♪」 大河「おぉ!?カワイコちゃんがいっぱいだぜ~♪」 シン「大河は黙っててくれ・・・」 大河「そもそも、どうして逃げたんだ?こんなに可愛い子がいるなら俺の夢見たハーレムそのものじゃねぇか?」 シン「もう我慢の限界だったんだ! 八神部隊長は、俺の部屋のPCに差出人が「yagami」のメールが何百通も来るし! なのは隊長は、頭冷やそうかの後のS.L.Bは身が持ちませんし! フェイト隊長は、「便乗♪」とか言って行く先々に何故か居るし! 後その他色々、とにかく俺は帰らないですからね!」 大河「シン・・・それなんてエr(クロスモード…シュート なのは「邪魔者は居なくなったし・・・バインドで拘束して連れて帰るよ、シン」 シン「いっつもそうやって、やれると思うなぁーー!!」 ピキーン!(バインドを見切りガード)→バックダッシュでその場から逃れる→脱兎 はやて「な、なんやて!?バインドがかわされた!?待ちや!シーン!」 なのは「逃がさないなの!シン!」 フェイト「そうだね、逃がす訳ないよね♪」 後に騒ぎを聞きつけた救世主候補生達が見た物は黒こげとなり放置された大河と数々の破壊の後であった。 シンが無事に逃げ切れたかどうかは誰も知らない。 リコ「・・・バカばっか・・・」 一覧へ
https://w.atwiki.jp/sinsougou/pages/989.html
ソローリ スカリエッティは逃げようとしていた。 ウーノ「・・・で、何でこうなったんですか。ドクター?」 ガシッ オットー「どこに」 ジャキッ ディード「行くおつもりで?」 スカリエッティの逃亡・・・オットーとディードの前に叶わず スカ「いやぁ、つい最近ネットで知り合いになった966氏におもしろい発明を教えてもらってねぇ・・・」 ドゥーエ「それで、ついついシンで実験したくなったと・・・・ジュルリ ねぇシンちゃん、お姉さんとイイところに・・・これは幻?」 そこには鼻血を流しながら眼鏡を光らせ、シンを狙うクアットロがいた。 クアットロ「シンちゃ~ん、お姉さんとイロイロ楽しみましょ~」 シン「いーやーだー!! あとシンちゃんって呼ぶな!」 クアットロ「ハアハア、さあW(ビシッ)」 襲い掛かろうとするクアットロにウーノが鋭い当身をくらわせ気絶させた。 ウーノ「まったく、また犯罪者になりたいの? シン君は予定通り私とデータ整理の仕事をしてもらいますが、よろしいですか?」 シン「はい!一生懸命やらせて頂ます!!」ビシッ! 即答であった。それは5歳児にして軍人の敬礼であった。可愛さは有り余っていたが シンは考えた。 もし仮に機動六課にかえる→力をもった常識人がいない→予想もつかないバットエンド ちなみに結論に至るまで0.2秒 ウーノ「うふふっよろしい。でしたら、まずは服を・・・」 スカ「ここに用意してあるよ」 セイン「計画通り」 ドゥーエ「みたいね」 ウーノ「はあー・・分かりました。ではそれをシン君に着てもらいます。 でも、その前にドクター、ドゥーエ、セイン」 ドクター・ドゥーエ・セイン「「「何(です)(かね)?」」」 ウーノ「今とった映像データは没収です。」 ドクター・ドゥーエ・セイン(何故ばれた!?!) -03へ進む -01へ戻る 一覧へ